借地借家法の適用のない新規地代の調査(駐車場用地の地代)大阪市南部

借地借家法の適用のない新規地代の調査(駐車場用地の地代)奈良県中和地区

不動産鑑定評価ケーススタディー(この案件の概要)

大阪市南部(阿倍野区、平野区、住之江区、西成区、住吉区、東住吉区)のエリアで鑑定評価を行うことがあります。この案件は、借地人からの依頼で調査を行った案件です。 依頼者は、地主から土地を借りている借地人で、その借地人も不動産を多数所有する地元の名士です。

この依頼者からの相談は、その依頼者が自己の所有地と借地している無道路地を活用し、駐車場を運営していたのですが、駐車場収入より地代の方が高かったので、地主と交渉するための内部資料として地代の調査の依頼があったものです。

今回の案件は、借地借家法の適用のない地代の調査だったので不動産鑑定評価が行えない案件でした。そこで、依頼者のニーズ等をお伺いし、意見書として新規地代の報告書を作成しました。その意見書で弊社が出した価額を目安に地主と交渉を行ったようです。

その依頼者から後に、地主側の弁護士から土地の継続賃料(継続地代)の分量のある報告書が依頼者に提出されたと、お話を伺いました。 この案件の特殊性は、通常の建物所有を目的とした地代ではなく、依頼者からすれば、赤字の駐車場の賃貸経営を継続してまで、この契約を継続する理由が無かったことから、弁護士が取得したボリュームのある継続地代の報告書は無駄になってしまったかもしれません。

なお、これが通常の建物所有を目的とした地代の場合、新規地代で交渉したいと弁護士からお願いされることがありますが、実質的に、継続地代でしか交渉は不可能なケースがほとんどです。すなわち、建物があるか無いかで、借地人の交渉力の有無(借地契約の解約の容易さ、そのことによる地主のデメリット)がかなり異なるのです。

駐車場
駐車場

不動産鑑定評価基準:借地権や底地の定義

借地権とは、借地借家法に基づく借地権のことであり、建物の所有を目的とする地上権又は賃借権を言います。 底地とは、当該宅地について借地権の付着している場合におけるその敷地の所有権を言います。

駐車場の借地の権利(鑑定評価以外の基礎知識)

駐車場には借地借家法の適用がありません。この場合、借地の契約期間(更新後の契約期間を含む)は当事者が自由に決めることが可能となり、借地契約の期間が満了した場合,双方で更新に合意がなされないと、地主は土地を返してもらうことが可能です。借地している方が契約の更新を求めても、地主はこれを拒否することが可能なのです。中途解約の規定が存在すれば、契約の期間の途中でも解約を申し入れることができるのです。

借地借家法は借地人を保護することを目的としていますが,駐車場にはその適用がなく、地主の土地活用が制限がかからないと同時に、借地人にとっても建物がないことから気軽に契約の更新拒絶ができるのです。

不動産鑑定評価基準:新規賃料を求める鑑定評価の手法

 積算法

 積算法は、対象不動産について、価格時点における基礎価格を求め、これに 期待利回りを乗じて得た額に必要諸経費等を加算して対象不動産の試算賃料を 求める手法である(この手法による試算賃料を積算賃料という。)。

不動産鑑定評価基準、国土交通省

積算法は、対象不動産の基礎価格や期待利回り、必要諸経費等を把握することにより適用ができる手法であり、後述の取引事例比較法の適用が難しい場合もあるので、新規地代の鑑定評価では、標準的で、通常適用される求め方です。

 ここで、基礎価格とは、積算賃料を求めるための基礎となる価格をいい、土地価格のことを一般的に指します。ただし、契約内容によりベストな使用ができないときは、契約減価を行います。

期待利回りは、それが公租公課を含めた場合の利回りか含めない場合の利回りかに注意しなくてはいけません。すなわち、一般的に把握される土地価格とその地代から把握される利回りは、粗利回りであり、それをそのままこの土地の期待利回りに採用できるものではありません。ここは、当たり前のことですが、間違っている方も多いので、気をつけて下さい。すなわち、鑑定評価の手法は、あとで公租公課を加算するので、期待利回りは、公租公課を含まない純賃料に対する利回りであることが必要です。

不動産の必要諸経費等としては、維持管理費、公租公課(固定資産税、都市計画税等)などが考えられます。通常、土地の管理に手間はかからないので、公租公課のみが地代を求める場合の必要諸経費となります。  

賃貸事例比較法

 賃貸事例比較法は、まず多数の新規の賃貸借等の事例を収集して適切な事例 の選択を行い、これらに係る実際実質賃料に必要に応じて事情補正及び時点修正を行い、 かつ、地域要因の比較及び個別的要因の比較を行って求められた賃料を比較考 量し、これによって対象不動産の試算賃料を求める手法である。

不動産鑑定評価基準、国土交通省

 賃貸事例比較法は、対象不 動産と類似の不動産の賃貸借等が行われている場合に有効ですが、例えば、地代の利回り事例の支払い地代の事例をを比準するということは、難しい場合が多いようです。なぜなら、このような事例は、契約内容や所在、賃貸の事情などの情報が不足しており、適正な要因比較が困難と考えられているからです。したがって、裁判鑑定などでいくつかの鑑定評価が出揃うケースでも、特に適正な事例を収集できた場合を除き、積算賃料のみの評価書が多く見られます。このとき、規範性の高い新規地代の事例を収集し、それを鑑定評価書に記載できた場合は、説得力が高いものとなります。ここは不動産鑑定士の日頃からの情報収集などの努力にも左右されることがあります。 

不動産鑑定評価基準:第2章 賃料に関する鑑定評価

 宅地の正常賃料の鑑定評価額は、積算賃料、比準賃料及び配分法に準ずる方法 に基づく比準賃料を関連づけて決定するものとする。

不動産鑑定評価基準、国土交通省

宅地の正常賃料の鑑定評価では、賃貸借等の契約内容を勘案し、宅地の経済価値に即応する適正な賃料を求めることが必要です。この場合、その地域で賃貸借等の契約慣行が存在しているか否かに留意し、賃貸借契約の種類や目的、一時金の有無、特約事項に留意しなくてはなりません。

また、お隣の宅地を借りる場合など、隣接宅地の併合を目的とする賃貸借の場合は、限定賃料を求める必要性が出てくる可能性に留意しなくてはなりません。これは、隣地併合の全ての局面で、限定賃料になるとは限らず、増分価値の発生の有無などにも留意しなくてはなりません。この場合、隣接宅地の権利の態様や賃貸借等の契約の内容を総合的に勘案すべきと基準に規定されています。

駐車場の地代の場合:期待利回りに注意

 通常の建物所有を目的とする新規地代の不動産鑑定評価書と駐車場の地代の意見書(不動産調査報告書)の違いは、積算法の期待利回りが異なることが論点のメインです。駐車場用地の募集された地代の情報があるので、それら事例は土地の賃貸の相場としては活用できますが、事例の精度(情報の信頼性、成約の有無)が劣るので、通常、賃貸事例比較法は適用が困難なケースが多いです。

なお、積算法により求めた地代は、地主サイドの供給者側の地代であることに注意が必要です。

まとめ

 借地借家法の適用のない物件では、新規地代の鑑定評価が行えません。また、駐車場用地の地代の報告書は鑑定評価基準を準用した意見書で作成されるのが通常と思われますが、継続的な賃貸借を前提とする継続地代の評価というのは、地主側の理論であり、このような建物が存在せず、逆ザヤが発生し、借地人が更新を望まない場合、新規地代の報告書でも十分に話し合いに活用が出来ると思います。

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